熟年離婚を考えている方へ
- 執筆者弁護士 山本哲也
熟年離婚するときには、経済的な問題が大きくクローズアップされる傾向があります。
夫婦ともに年金生活となって収入が少なくなっているケースが多く、婚姻中に主婦をされていた方等の場合には無収入の事例もあるためです。
熟年離婚にはメリットもデメリットもあるので、正しく理解した上で離婚するかしないか決断しましょう。
今回は熟年離婚を考えている方が知っておくべき知識を弁護士がお伝えします。
後悔しない離婚を実現するため、ぜひとも参考にしてください。
熟年離婚とは?
熟年離婚とは一般的に、ある程度婚姻年数を重ねた夫婦や中高年夫婦の離婚を意味します。
正確に「婚姻期間が何年以上」「何歳以上」なら熟年離婚になる、といった定義はありません。
20年以上連れ添ってから離婚するなら熟年離婚ととらえられやすいでしょう。
年齢的には50代以上の方の離婚を熟年離婚とよぶケースが多数です。
熟年離婚の原因
熟年離婚の原因としては以下のような事情がよくみられます。
- 定年退職した夫と一緒に生活するのが苦痛
- 夫が家事をしてくれない。
- 夫や妻が不倫している
- 子どもが独立して、夫と2人の生活に耐えられない
- 定年退職後、第2の人生は妻と別れて自分の自由に生きたい
- 相手との喧嘩が絶えず、精神的につらい
熟年離婚が増えている社会的な背景
近年、熟年離婚が増えているといわれます。
多くの人が熟年離婚を選択するようになった社会的背景としては以下のようなことが考えられるでしょう。
1.女性の社会進出
1つには女性の社会進出が進んだことが挙げられます。
旧来、女性は家事や育児を担当し、外で働いていないケースが多数でした。
しかし今では仕事を持ち収入を得ている方が増えています。
経済力があれば夫の収入に頼る必要がありません。離婚に対するハードルが低くなって熟年離婚を躊躇しない女性が増加する要因となります。
2.年金分割制度の整備
2つ目に「離婚時年金分割制度」ができたことです。
離婚時年金分割制度とは、夫婦が婚姻中に払い込んだ年金保険料を按分するための制度です。
離婚時に年金分割しておくと、老齢年金を受け取る年齢になったときに振り込まれる年金額が自動的に調整され、年金の少ない方は増額され、多い方の金額は減らされます。
これにより自分の年金の少ない配偶者でも年金を多めに受け取れるので、離婚へのハードルが下がったといえるでしょう。
関連リンク:年金分割について
3.離婚への社会的偏見が薄らいだ
社会全体における「離婚への偏見」が小さくなったことも、熟年離婚が増えた一因となっています。
従来、日本では離婚に対する偏見があり、若い世代であっても「離婚した」となると色眼鏡でみられるケースが多くありました。まして熟年世代の離婚は「格好悪い」「変わっている」と思われたでしょう。
しかし近年では離婚がさして珍しいことではなくなり「熟年離婚」という言葉も浸透し、社会的な偏見が小さくなっています。
その結果、熟年離婚に躊躇しない人が増えているのです。
4.アクティブなシニアが増えた
近年では医療や介護が発達して平均寿命も延びたことにより、アクティブなシニア層が増えています。
夫も妻も「定年退職後には自分の自由な人生を生きたい」と考えるのも自然な流れといえるでしょう。
長いセカンドライフを気の合わない相手に合わせるよりも、自分の好きに生きるために熟年離婚を選択する人が増えています。
熟年離婚の特徴
熟年離婚には若い世代の離婚と比較して、以下のような特徴があります。
1.子どもの問題が発生しない
熟年離婚の場合、たいてい子どもは成人しています。
若い世代であれば「親権」「養育費」「子どもとの面会交流」などの問題が発生しますが、熟年離婚であればそういったことはほとんど争点になりません。
2.財産分与が問題になりやすい
熟年離婚の特徴は、財産分与が高額になりやすいことです。
財産分与とは、夫婦が婚姻中に協力して積み立てた財産を離婚時に分け合う手続きです。
熟年離婚の場合、婚姻年数が長いので財産の蓄積も大きくなり、財産分与対象額も多額になる傾向があります。
また保険や退職金、株式、不動産などさまざまな財産が分与対象となるケースも多く、財産調査や計算も複雑になりがちです。夫側が「退職金は財産分与したくない」と強く拒絶するケースも少なくありません。
夫も妻も離婚後の収入が少ないので、生活において離婚後に財産分与されたお金に頼らざるをえない問題もあるでしょう。
熟年離婚ではお互いに財産分与に焦点を当てるため、大きな問題になりやすい傾向があります。
関連リンク:財産分与について
3.年金分割が比較的高額になる
熟年離婚では、年金分割のインパクトも大きくなるケースが多数です。
年金分割では「婚姻中に払い込んだ年金保険料」が問題となるため、婚姻期間の長い熟年離婚では、年金分割によって移譲される年金額も大きくなりやすいのです。
年金分割を請求される側(多くは夫側)が年金分割(合意分割)を拒否してトラブルになる事例も少なくありません。
熟年離婚のメリット
熟年離婚には以下のようなメリットがあります。
離婚後の人生を自由に生きられる
人生が100年近くに延びた現代において、定年退職後の時間は単純計算で約40年にもなります。
その間、気の合わない相手と我慢しながら暮らすのはもったいないとも考えられるでしょう。熟年離婚すれば、長い第2の人生を自分の自由に生きられるメリットがあります。
ストレスがかからない
熟年離婚してしまえば、相手とかかわらなくて良くなるのでストレスも受けずにすむメリットがあります。
配偶者と性格が合わない、喧嘩が絶えないなど不仲な状態が続いていると、日々大きなストレスがたまるものです。
義実家とかかわらなくて済む
特に妻側に多いお悩みとして「夫の実家の親族と合わない」といったものがよくあります。
熟年離婚したら、相手の実家とは無関係となってかかわらなくて済みます。
「夫の親と同じ墓には絶対に入りたくない」という声も少なくありません。
相手の介護をしなくて良い
結婚したままの状態で相手が介護を要する状態になると、配偶者としては介護をしなければならない可能性があります。もともと苦手な相手の介護などやりたくない方も多いはずです。
熟年離婚したら相手とは他人になるので、その必要はなくなります。
浮気やDVから逃れられる
相手が浮気している、相手からDVを受けているのが原因で熟年離婚を選択する方もおられます。
こういった問題のある事例では、離婚によって相手の浮気やDVから解放されるので、大きなメリットがあるでしょう。
相手に不貞やDVなどの違法性があれば、離婚の際に財産分与だけではなく慰謝料も請求できます。
熟年離婚のデメリット
熟年離婚には以下のようなデメリットもあります。
財産が減る
離婚にはお金がかかります。
特に財産分与する側は相手に半額程度の財産を交付しなければならず、手持ちの資産が大きく目減りしてしまうでしょう。
また結婚していれば世帯が1つなので出費も少ないですが、離婚するとお互いがそれぞれ生計を立てなければならないので余計なお金がかかります。
熟年離婚する際には、経済的な問題が発生しやすいので、事前に離婚後の生活についてしっかりシミュレーションしておきましょう。
介護が必要になったときの不安
熟年離婚すると、将来介護が必要になったときに不安があります。
結婚していれば、相手が介護してくれたり介護サービスを申し込んでくれたりするので、放置される心配は少ないでしょう。
熟年離婚して1人になってしまったら、誰も必要な介護をしてくれない可能性があります。
離婚を選択するなら、将来心身が弱ったときのことも考えておくべきといえるでしょう。
孤独になる
熟年離婚すると、長年連れ添った相手がいなくなって孤独を感じる方が多数おられます。
元気なうち、1人でも平気な方や子どもとかかわりのある方はよいですが、天涯孤独になって後悔するケースもあるので、離婚前に考えを巡らせておきましょう。
子どもに理解されないケースもある
熟年離婚が子どもに理解されず、子どもと不仲になってしまう方もおられます。
実際に離婚してしまう前に子どもと話し合い、離婚したい理由や離婚への強い気持ちなど伝えて理解してもらっておきましょう。
熟年離婚のための準備
熟年離婚する際には、いきなり相手と話し合うのではなく以下のような準備をしましょう。
資料を集める
まずは資料集めが大切です。特に財産分与が問題になるケースが多いので、財産に関する資料は積極的に収集しましょう。
- 銀行預金通帳
- 保険証書や解約返戻金に関する情報
- 不動産全部事項証明書や査定書
- 退職金関係の書類
- 株式や投資信託に関する資料
- 車検証や査定書
コピーでも構わないので、上記のようなものを集めてください。
何が必要かわからない場合や集め方がわからない場合、弁護士へ相談しましょう。
離婚後の生活をシミュレーションする
離婚後、経済的に生活していけるのかシミュレーションしましょう。
年金を含めて収入がどの程度になるのか、手持ちの財産を取り崩して生活できるのかなどが主な検討事項となります。
離婚条件を決める
希望する離婚条件を決めておきましょう。事前に固めておけば、スムーズに離婚協議を進めやすくなります。
年金分割を請求する際には、年金事務所へ「年金分割情報通知書」を請求して取得しましょう。
50歳以上の方の場合、年金分割したときにどの程度の年金を受け取れるのか、見込額を知らせてもらうことも可能です。
関連リンク:50代のための離婚相談
仮差押が必要なケース
相手が財産を使い込むリスクが高い場合、仮差押しておくべきです。仮差押をすると、相手は預金や不動産などの財産を動かせなくなって、権利が守られます。
放っておくと財産が失われて取り立てもできなくなる可能性があるので、心配なら早めに弁護士へ相談しましょう。
熟年離婚の相談は弁護士へ
熟年離婚を考えておられるなら、離婚後の生活のシミュレーションを行い、財産分与についてしっかりと条件を確認する必要があります。
熟年での離婚は財産も高額となり計算が複雑となるケースが多くありますので、離婚問題に詳しい専門家にご相談されることをおすすめします。
群馬の山本総合法律事務所では離婚問題に積極的に取り組んでいます。同じビル内で税理士・司法書士と連携してトータルな解決方法をご提案可能です。
熟年離婚を検討している方がおられましたら、お気軽にご相談ください。
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