成人年齢引き下げで離婚や養育費はどうなる?       

更新日:2022/09/15
養育費のイメージ

2022年4月1日、民法改正によって「成人年齢」が引き下げられました。

従来女性は16歳になると結婚できましたが、結婚年齢は男女ともに18歳に統一されます。

また成人年齢が引き下げられたことによって離婚や養育費にも影響が及ぶ可能性も出てきました。

今回は成人年齢引き下げやそれによる離婚、養育費への影響、対策方法について弁護士が解説します。

離婚を考えられている方や養育費の取り決めを検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。

1.成人年齢引き下げとは

18歳と20歳

成人年齢引き下げとは、法改正によって従来20歳とされていた成人年齢が18歳へと引き下げられることです。

18歳になれば十分な判断能力があると考えられること、18歳の人にも選挙権を与えるべきと考えられること、諸外国では18歳になれば成人扱いされるケースが多いことなどにより、日本でも成人年齢が18歳に引き下げられました。

成人年齢引き下げの改正法が施行される時期

成人年齢を引き下げる改正民法が施行されたのは2022年4月1日です。

すでに有効になっているので、これから離婚される方は「子どもの成人年齢が18歳」であることを前提に行動する必要があります。

2.子どもが成人する年齢

勉強する女性

離婚時には、子どもが成人しているかどうかが重要なポイントとなります。成人していれば親権者を決める必要がありませんが、未成年なら親権者を指定しなければならないためです。

子どもが成人する年齢やタイミングは、子どもの生まれた年によって異なる可能性があります。

現在は「18歳で成人する人」と「19歳で成人する人」「20歳で成人済みの人」が混在している状況です。

子どもの誕生日と成人年齢の早見表

以下で整理しましょう。

子どもの誕生日 成人のタイミング
2002年4月1日以前 20歳の誕生日にすでに成人済み
2002年4月2日~2003年4月1日 2002年4月1日に成人済み(成人年齢は19歳)
2003年4月2日~2004年4月1日 2022年4月1日に成人済み(成人年齢は18歳)
2004年4月2日以降 18歳の誕生日で成人になる

子どものいる方が離婚する場合には、上記を参考に「いつのタイミングで成人するのか」を意識しましょう。

不明な場合には弁護士が個別にご説明しますので、ご相談ください。

3.成人年齢によって影響する可能性のある親権と養育費

財布を持つ母親

民法改正で成人年齢が変更されることにより、離婚時に取り決めるべき親権者と養育費に影響が及ぶ可能性があります。

親権者とは

親権者とは、子どもの財産管理や身上監護を行う親です。

日本では、婚姻時には共同親権なので両方の親に親権が認められますが、離婚後には片方の親にしか親権が認められません。片親にしか親権が認められない制度を単独親権といいます。

よって離婚時にはどちらかの親を親権者に指定しなければなりません。

■ 親権について詳しくはこちら

養育費とは

養育費は、子どもを養育する親が養育しない親(別居親)へ請求できるお金です。

子どもと一緒に生活しなくても親であることに変わりはないので、親権者や監護者にならなかった別居親は同居親へ養育費を払わねばなりません。

養育費には子どもの衣食住にかかる費用、医療費、学費、遊興費などが含まれます。

離婚後スムーズに養育費を払ってもらうため、離婚時には養育費の取り決めも行っておくべきです。

養育費の金額については裁判所の定める相場があるので、こちらに従って決めるのがよいでしょう。

さらに子どもの成人年齢は「離婚前の婚姻費用(生活費)」にも影響する可能性があります。

■ 養育費について詳しくはこちら

婚姻費用とは

婚姻費用とは、離婚前の夫婦がお互いに負担すべき生活費です。

夫婦にはお互いに経済的に支え合わねばならない生活保持義務があります。たとえ不仲となって別居したとしても、収入が高い方の配偶者は低い方の配偶者へと生活費を払わねばなりません。そのお金を婚姻費用といいます。

婚姻費用には未成年の子どもの生活費も含まれるので、子どもの成人年齢は婚姻費用の金額に影響するのです。

婚姻費用の相場についても裁判所の定める相場があるので、一般的にはこちらに従って決めるのが良いでしょう。

■ 婚姻費用について詳しくはこちら

4.親権と成人年齢について

手をつなぐ親子

民法改正によって成人年齢が引き下げられたため、親権者を取り決めるべきケースが変わってきます。

従来の成人年齢は20歳だったので、20歳以下の子どもがいる場合に親権者を決める必要がありました。

子どもが18歳・19歳の場合

ところが法改正によって成人年齢は18歳に引き下げられたため、19歳や20歳の子どもの場合には親権者を定める必要がなくなりました。今後離婚される方は、18歳以下の子どもがいる場合にのみ親権者の話し合いをして親権者を指定することになります。

なお親権者を決める手順や基準などの手続きや要件については、今後も変更されません。話し合っても決められない場合には、家庭裁判所で離婚調停を申し立てましょう。

離婚調停を申し立てたい方へ

5.養育費と成人年齢について

生活費のイメージ

法改正で成人年齢が引き下げられたため、養育費にも影響が及ぶ可能性があります。

特に問題となるのが「養育費の支払い終期」すなわち「いつまで養育費を支払うべきか」という点です。

養育費の支払いは「子どもが成人するまで」

原則として、養育費は「子どもが成人するまで」支払われるべきと考えられています。

従来は「子どもが20歳になる誕生日のある月」まで支払われるのが基本の対応でした。

ところが今般、成人年齢が引き下げられたために18歳の誕生日までしか支払われない可能性が出てきたのです。

すると、これまで養育費を請求できた親が養育費をもらえなくなり、子どもの生活が脅かされる可能性があります。

この点については裁判所や有識者らが話し合い、すでに結論が出ています。

具体的には、民法における成人年齢が引き下げられても養育費の支払い終期に変更はない、と考えられています。

たとえば平成30年度司法研究(「養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究」)には以下のように記載されています。

「成年年齢引下げによる影響(養育費の支払義務の終期等)」の項において「養育費の支払義務の終期は未成熟子を脱する時期であって、個別の事案に応じて認定判断される。」としながら「未成熟子を脱する時期が特定して認定されない事案については、未成熟子を脱するのは20歳となる時点とされ、その時点が養育費の支払義務の終期と判断されることになると考える。」と書かれているのです。

ここでは「未成年」と「未成熟」は異なる概念であると理解されています。

成年とは「子どもが成人したとき」ですが、成人したからといって必ずしも成熟するわけではないので、養育費が不要になるとはいえない、という考え方です。

たとえ法律上は成人しても未成熟であるのが通常なので、成熟する20歳までは養育費が払われるべき、という考えがベースになっています。

法務省の「民法(成年年齢関係)改正 Q&A」でもやはり子どもが20歳になるまで養育費を請求できる、という内容の記載があります。

以上より、今後たとえ民法上の成人年齢が18歳になったとしても養育費については従来とおり、20歳まで請求できると考えましょう。

2022年4月1日以降に離婚される方であっても、養育費の支払い終期は子どもが20歳になる月以後に設定するのが原則です。

6.離婚時の養育費の取り決め方

大学生

従来においても離婚時に養育費を取り決めるとき、必ずしも子どもが20歳になる月で養育費を打ち切る必要はありませんでした。

現代では4年制の大学や専門学校、大学院などへ進学する人が多数だからです。学生時代はまだ成熟していないと考えられるので、養育費が支払われるべきと考えられています。

大学卒業年齢までが一般的

親同士が話し合い、子どもの大学卒業年齢や大学院卒業時まで養育費を払う約束をするケースが一般的といってよいでしょう。

お子様が大学生のケースや大学進学の可能性が高い場合などには、養育費の支払い終期を「22歳になった月の次の3月まで」「大学卒業時まで」などに設定しましょう。

いずれにせよ、民法改正との関係で養育費の支払い終期については明確に取り決めておかないと混乱が生じる可能性もあります。今後は養育費についての支払い合意書を作成しておく必要性が従来以上に高まると考えられます。

養育費の合意書は公正証書で作成する

養育費を取り決めとおりに最後まできちんと払ってもらうには、養育費の合意書を「公正証書」にしておくようおすすめします。公正証書があれば、相手が支払わないときにすぐ任意整理給料を差し押さえるなどして回収できるからです。

もしも公正証書がなかったら、あらためて調停や審判の過程を経なければなりません。

特に民法が改正されたことによって相手が18歳で支払いを止める可能性もないとはいえないので、養育費の不払い対策は十分に行っておくべきです。

6.婚姻費用と成人年齢

おもちゃの貯金箱と木のブロック

成人年齢引き下げは、婚姻費用にも影響を及ぼす可能性があります。

婚姻費用には「未成年の子どもの養育費」も含まれるからです。

養育費と婚姻費用の関係

子どもが成人していれば「夫婦のみの表」、子どもが未成年なら「子どもの養育費を含んだ表」を適用するのが基本となっています。

それであれば改正民法の施行後は、子どもが18歳以上になると「夫婦のみの表」を適用すべきなのでしょうか?

この点については、養育費の問題と並行して対応すべきと考えます。

子どもが成人しても未成熟である以上、養育に費用がかかります。よって婚姻費用についても従来とおり、子どもが20歳になるまでは「子どもがいる前提の表(15歳以上の子どもがいる表)」を用いて計算すべきといえるでしょう。

まとめ

2022年4月1日から成人年齢が引き下げられ、親権者を決めるべきケースは限定されました。一方で、養育費や婚姻費用については影響を受けないと考えられています。

ただし養育費や婚姻費用をきちんと払ってもらうには、自分たちで支払い金額や支払い終期を取り決めて合意書を作成しておくべきです。

群馬の山本総合法律事務所では離婚問題に積極的に取り組んでおり、これまで多くの方の離婚サポートを行ってきました。成人年齢や子どもの問題、財産分与などでご不明点がありましたら、お気軽にご相談ください。

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