モラルハラスメントは離婚原因になりますか?
- 執筆者弁護士 山本哲也
1 モラルハラスメント(モラハラ)とは
モラルハラスメント(モラハラ)は、言葉や態度などによって他人を精神的に傷つける、精神的な暴力や嫌がらせのことをいうとされています。パワハラやセクハラも、モラルハラスメントの一つです。裁判例は、「心理的虐待」、「精神的虐待」などといった言葉を用いて離婚原因に当たるかを判断しているものが多いです。
2 モラルハラスメントが離婚原因になるか
2−1.離婚原因とは
離婚原因については、民法770条1項が定めています。同項は、不貞行為、3年以上の生死不明、強度の精神病を明示していますが、このほかにも、「婚姻を継続し難い重大な事由」と評価し得る事情があれば、それが離婚原因となります。
婚姻を継続し難い重大な事由は、婚姻関係が破綻して回復の見込みがない場合に認められます。
2−2.婚姻を継続し難い重大な事由とモラルハラスメント
モラルハラスメントそのものは、離婚原因として明文で定められているわけではありません。そこで、モラルハラスメントを理由として離婚を請求する場合、婚姻関係を継続し難い重大な事由があると主張することになります。
具体的には、モラルハラスメントが離婚原因に当たるというためには、モラルハラスメントにより婚姻関係が破綻し、回復の見込みがなくなったといえることが必要です。
もっとも、実際には、モラルハラスメントに当たる言動だけでなく、その他の夫婦間の様々な事実も合わせて総合的に考慮し、婚姻を継続し難い重大な事由があると判断する裁判例が多いです。
3 裁判例
実際に、モラルハラスメント(心理的・精神的虐待)があったと認められた事案において、裁判所がどのような判断をしたか、いくつか例を見てみましょう。
3−1.多くの心理的虐待に当たる事実を認定して離婚請求を認めた事案
(東京地裁平成17年3月15日判決)
この事案では、夫が、妻の入院時に「人の不便も考えろ」などと発言したほか、昼夜逆転した生活に妻を付き合わせ、深夜に食事を作らせるなどして眠らせないようにするといった異常な行動や、夫と仲違いした義弟につき、妻に対し、「義弟が謝らないなら、殺してやる」「女房なのだから、お前が刺せ」と怒鳴るなどの言動がありました。
裁判所は、心理的虐待といえる多くの事実を指摘し、離婚原因があるとしました。
3−2.心理的虐待に加え他の事情も総合的に考慮して離婚を認めた事案
②忍耐不可能な程度の言動でなくても離婚を認めた事案
(東京地裁平成16年9月29日判決)
① この事案では、裁判所は、夫の粗暴な言動、妻へのいたわりが感じられないこと、妻が精神的ダメージを受けていたなどの心理的虐待に関する事実を認定したほか、夫婦間の性交渉がほとんど持たれなかったこと、およそ4年間の別居期間中、夫婦関係を修復しようとした形跡がうかがわれないことも認定し、婚姻関係を継続し難い重大な事由があるとしました。
この事案では、裁判所は、心理的虐待のみならず、他の事情も総合的に考慮して離婚を認めています。
② また、この事案では、夫が、DVに匹敵するような忍耐不可能な程度の暴行・虐待がなければ婚姻関係が破綻したとはいえないと主張していました。
しかし、裁判所は、そのような事態に至らなくても、配偶者の日常生活の言動が、婚姻関係の継続に必要な夫婦の信頼を破壊し、修復し得ないほどに至れば、婚姻関係を継続し難い重大な事由になり得るとしました。
3−3.心理的虐待行為があったとしながらも、離婚が認められなかった事案
(東京地裁平成17年3月14日判決)
この事案においては、裁判所は、妻らを突き放すような夫の発言や対応があり、その心ない態度、言動に妻が不信感を持っていることを認定しました。
しかし、一方で、30年間概ね平穏に婚姻関係が推移してきたこと、別居の半年前に妻が夫の還暦祝いをしようとしたこと、性交渉を受容するような態度を示したことなどから、それらの時点では妻が婚姻関係が破綻しているとは考えていなかったとし、妻の主張する心理的虐待行為と離婚請求には因果関係がないと判断しました。また、別居期間がまだ1年間しかないということも挙げられています。
この事案では、裁判所は、心理的虐待に当たる行為があったとしながらも、その他の事情を総合的に考慮し、離婚を認めませんでした。
4 最後に
このように、モラルハラスメントないしは心理的虐待、精神的虐待がある場合、離婚原因が認められる可能性があります。
しかし、モラルハラスメントの事実により離婚が認められる場合のほか、それ以外の事実を合わせて総合的に考慮して離婚が認められる場合、また、たとえモラルハラスメントに当たる事実があったとしても、離婚が認められない場合もあります。
そこで、モラルハラスメントがある場合に離婚が認められるかどうかについては、その内容のほか、夫婦間の他の事実も合わせて検討する必要があります。
より詳しいことについては、一度離婚問題に精通した弁護士に相談してみて下さい。
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